●2008 J1 第5節 大宮アルディージャ vs 大分トリニータ
今シーズンの大宮はネット上で樋口監督のやり方が注目を浴びていたり、大分は大分でやはりシャムスカ采配と一目置かれていたりするから、このカードは楽しみだった。
大宮は中盤がフラットな4-4-2。昨年までは右サイドバックをやったりしていた冨田がレアンドロと組んでセンターバックにいる。中盤は斉藤と小林慶行のセンターで右に大悟、左に内田。藤本主税は怪我なのかベンチにも入っていない。
大分の方は3-5-2。U23代表の森重がスイーパーてのは知らなかった。注目点は負傷離脱していた高松の復帰。それから右ウイングバックに小林亮を入れてきたこと。右サイドでの差し合いはやや不利と見たのか。それにしても改めて振り返ると、大分の試合を生でまともに見た事なんてなかった。応援しているとどうしても自チームばかり見てしまって、対戦相手のやり方にまで気が回らないものだから、今シーズンのように「J1全チームを一度は生観戦する」といった目標を立てなければ観戦する機会さえなかったのだ。なのでシャムスカ大分とは何度か対戦したことはあるものの、腰を据えての観戦は初めてでこれには自分でも驚いた。
ゲームは基本的に大宮がペースを掴んだ状態で流れていく。大宮はよく訓練されたチームで、ボールホルダーに対して必ず2本のパスコースを作ってトライアングルを形成し、加えて外側の4人目によるフリーランの形が徹底されている。ボールホルダーにはサポートが付いているから、寄せられた場合や詰まった場合でもボールロストせずに攻撃を組み立てなおすことができるし、フリーランの選手にパスを通すことで一足飛びにチャンスを作る事もできる。連動性の高いシステムを採用し、そこに選手を嵌め込んでいる感じだ。
いっぽうの大分は、組み合わせの妙。特長を持った選手達を、相互に補完できるよう配置する事でチームに有機性を持たせる感じだ。監督の役割は選手の特長を見極め、適材適所に配置していくことだ。ちょうどジーコが日本代表監督をしていたときの形に似ている。ブラジル人の監督だとこういったやり方になるのかもしれない。
今回の大分はその意味で少しミスキャストがあったのかもしれない。大宮のプレスが高い位置から掛かるのは勿論の事だが、4-4-2のサンドイッチの場所になると更に苛烈さを増す。そのプレッシングの嵐の中だとウェズレイと高松が橋頭堡になれない。前半の中頃に金崎夢生がムールーレットで相手をかわしてフリーになったような、個人技でフリーになる状況でも作らない限り大宮のDFラインの前にクサビを打ち込めないのだ。だったら2トップはウェズレイと高松のコンビではなく、ひとりは裏への抜け出しを狙う選手だったほうがよかったのではないだろうか。
とはいえ真ん中がダメなら端から攻めればよく、その意味でサイド攻撃はどうだったかといえば、これはこれで大宮のDFラインを突破できない。またホベルト、エジミウソンのボランチもボールを持てはプレッシャーに晒され、出しどころを抑えられた状態になってしまう。要するに大分はアルディージャの型に嵌っていた。
したがって大宮が一方的に攻めまくっていたというわけでもなくて、大宮はパスこそ繋いでポゼッションを保つものの、ゴール前でのアイデアに乏しい。全体的な優勢を確保しつつも決定機がほとんどない状態でハプニングゴールでも決められるといきなり苦しくなりそうではある。
ただ、このゲームでは攻めあぐんでいた大宮に嬉しいサプライズが待っていた。前半終了間際、大分DF森重がサイドに出した組み立てパスを小林大悟がインターセプトすると、そのままデニス・マルケスへパス。デニス・マルケスは大分DFラインの眼前を横切るようにドリブルしつつサポートに入ってきた小林慶行へパスを出す。小林慶行へのパスはやや後方に流れてしまうが、それは小林慶行のサポートに走りこんでいた斉藤雅人へピッタリ。斉藤雅人が走りこみながらダイレクトで右足を振りぬくとコース、スピードともに申し分のないミドルシュートが巻くように大分ゴール左隅に突き刺さる!大宮が先制して前半を折り返す。
後半に入っても大宮が全体的優勢のペースを保つ。大分は攻め込もうにも攻め込めず焦れた展開が続く。その中での一瞬の気の緩みが失点に繋がってしまう。後半25分くらいから大宮の選手が続けざまにピッチに倒れこみ試合が中断。倒れこんだ二人目の内田が金澤に代わった直後のスローインからのパスが左サイド、タッチライン際を走っていたデニス・マルケスへ通り、デニス・マルケスはそのまま中央へ低いクロスを通す。クロスを受けた金崎がゴールを狙うがこれはバーを直撃、その跳ね返りをまたしても斉藤。ダイレクトシュートが大分ゴールを陥落させて2点目。いやはや、斉藤雅人の2ゴールなんて今までにあったかどうか(どうやら始めてだったらしい)。
大分が決定的なチャンスを作れるようになったのは左サイドに根本が投入されてから。出場してから試合終了までの約10分の間に二度左サイドを突破して大宮のGKとDFラインの間に低く速いクロスを通すが、大分のFW陣がこれに触れられず。ゲームはそのまま大宮の完勝で終了した。
●ポイント
大宮のシステムの勝利だったといえる。先制点を取られていればどうなったかは分からないが、先制点を奪うまでの時間帯もボールホルダーに対するサポートの徹底でヘンな奪われ方をするシーンはなかったし、ポゼッションを高めることでリスクを低く抑えていたため、試合全般を通じて決定的なピンチはなかった。大分についてはサブの選手の特徴まで把握していないためよく分からないが、根本の投入がもう少し早ければ事態は変わったかもしれない。
●大宮アルディージャ
前述のとおり、よく訓練されていると思った。いっぽうでチャンスを作れない点が気にもなった。今節のような敵のミスに乗じた突発的なゴールももちろん有りだが、採用しているシステムから考えるとポゼッション状態から敵陣を崩してのゴールを目指していると思われる。しかし現時点ではそこまで至っていない。そのあたり、チーム構築の進捗が少し遅いのではないかという気がする。戦術をどう発展させていくのかは楽しみであるが、発展する前に負けが込んだ場合を考えると不安にもなる。
●大分トリニータ
昨シーズンの話である。シャムスカ監督は名将との誉れが高いが、昨シーズン前半は思うような成績を残せず、J1残留へ向けてホベルトとエジミウソンを再獲得するに至った。そこでなぜシャムスカでも駄目だったのかと疑問に思っていたのだが、このゲームを見ると、シャムスカとはどうもオシムのように戦術指導を行うコーチとは違い、選手起用の巧みさとモチベーションコントロールでチームを乗せていくタイプのコーチかな、と思った。だからそもそもの駒が揃わないとチームの編成にも苦慮するのではないか、と。今回の場合はその選手起用が嵌らなかった。高松とウェズレイというボールの収まる2人を起用して前線にクサビを打ち込もうと目論んでいたと思うが、それは大宮のプレッシングの前に瓦解した。特にウェズレイには往年の力強さが既になく、少し当たられるとコロコロ転がってしまう。そのあたりに誤算があったのではないか。
ただシャムスカ監督の場合、対戦相手の分析は優れているから今後も監督次第、となるだろうか。そしてそんなサッカーに未来はあるのか、と一抹の不安は覚えた。
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