イルカとシャチのどつき合い
川崎フロンターレは言わずと知れた攻撃力のチームで、ジュニーニョ、チョン・テセに加えて我那覇の復活、そして前節新加入のヴィトールを加えて破壊力にますます磨きがかかる。ただし五輪代表に選出された谷口が不在。いっぽうの名古屋グランパスはストイコビッチ監督の手による組織的な攻撃、組織的な守備で華々しい活躍を続けている。その両チームとも前節は埼玉のチームに快勝して意気揚々、川崎は首位との勝ち点差5、名古屋は勝ち点差2の位置につけ、虎視眈々と上位を窺い、この一戦に臨む。
●先手
試合開始と同時に攻め込んだのは川崎で、猛然と名古屋陣へと攻撃を仕掛け、ジュニーニョのシュートはあわやゴールを捕らえたかに見えたが、そこは名古屋のクロス婆さん、これを弾き返して一息入れる。それでも勢い落とさぬ川崎は名古屋を激しく攻め立てて、あと少し、もう少しでゴールかと思うたその矢先、名古屋の右サイドバック竹内、矢の如きフィードを対角へ放ち、これを受けたマギヌンがドリブルにて無人の野を駆け抜けると、とうとう川崎ゴールを陥れてしまう。
●川崎の反撃
さて、出鼻を挫かれた川崎ではあるが、自慢の攻撃陣が黙っているはずも無く、いよいよもって攻勢を掛ける。注目は前節から出場のヴィトール・ジュニオール。ヴィトール・ジュニオールとはブラジルはリオグランデ・ド・スル州の人で、クルゼイロ、ディナモ・ザグレブ、サントス等を経て川崎に加入した助っ人である。J初出場の浦和戦で1ゴール1アシストを決めてその名を全国に轟かせ、そしてこのゲームでもトップに近い位置でプレーする。このヴィトール、非常にボールの収まりがよく、そしてキープ力も半端ないため、名古屋はバイタルエリアに橋頭堡を作られてしまう。さらにサイドチェンジを織り交ぜて右から村上、左から山岸、後方からは中村憲剛と並居る猛者が押し寄せて、名古屋のゴール前に寄せては返し、返しては寄せる波状攻撃を仕掛けるが、しかし名古屋の守備陣もよく凌ぎ、凌いだ合間に鋭利なカウンターを入れるものだから、猛攻を続けているとは言えども川崎は隙を作れない。攻守の切り替え速い前半は、瞬く間に過ぎ去って名古屋のリードで折り返すこととなった。
●西城秀樹
フロンターレが毎試合しているのかどうか知らないけれど、このハーフタイムに姿を現したのは川崎市民、西城秀樹。「ローラ!」を歌い上げた後にフロンターレサポ集うバックスタンドはGゾーンの前でレプユニ姿を晒してヤングマンを熱唱。さんざんサポを煽りながらゴール裏へと移動し、姿を消すと後半開始。こういうところ川崎って地元の財産を生かした、本当に地元密着の市民クラブの道を歩んでいるのだなあと思った。それにハーフタイムの手持ち無沙汰感がなかったことを考えると、興行としてのJリーグとして見ても客を飽きさせないプログラムになっているんじゃないかと思う。
●同点、アクシデント
ヒデキの熱さに乗せられたか、フロンターレは後半立ち上がりも攻撃の手を緩めない。ヴィトールのシュートはポスト婆さんに弾かれ、チョン・テセのシュートは楢崎に阻まれるも、こぼれ球をヴィトールが押し込んでついに同点。ところがここで思いがけないアクシデント。何があったか主審が交代。副審の人が主審を務めることになった。
●白熱の攻防
さて、追いつかれた名古屋で激怒したのはストイコビッチ監督。しかし川崎、余勢を駆って猛攻を続ける。これを見たストイコビッチ監督、中盤の底での抑えが効いていないと見定めて吉村に替えて米山を投入。対する川崎、高畠監督は攻撃の継続手としてチョン・テセに替えて我那覇を入れる。さらにストイコビッチ監督、玉田に替えてスピードスター杉本恵太を入れてカウンターを狙わせる。交代策は名古屋に軍配が上がったか、名古屋の攻撃に火が点る。サイドから崩してヨンセン狙いのクロスに、中央を割って入る杉本のドリブルとワイドな攻撃で川崎ゴールを脅かす。いっぽうの川崎も負けず劣らず、ボール奪取からジュニーニョの快速を生かしてカウンターを炸裂させる。攻守の切り替えが早くめまぐるしく、一瞬たりとも気を抜けないゲームとなって両チームが死力を尽くして攻めあう。終盤に至ってなおゴールは決まらず、しかしながら見ごたえのある攻防で気がつくとロスタイムながら、あと15分は見ていたいと思わせる好ゲーム。結局のところ両チームとも決定的なチャンスがありながら、好守に阻まれ追加点を奪えず引き分けとなった。
●スカパー
ところでこのゲーム、おさらいのため翌日にスカパーで見たのだが、全然ダメ。現場で見ているときのスピード感、切り替えの早さがまるで映されておらず、ややもするとゆったりプレーしているかのようにさえ見えてしまった。原因は明らかで、ボールホルダー以外のところのフリーランなどが相当激しく行われていたのにスカパーの映像はボールホルダーとその周辺ばかり映していたためピッチの白熱が伝わらないのだ。NHK-BSなどはプレミアを放映している所為かそのあたり非常に上手くて、テレビの画面縦幅にだいたい両サイドのタッチラインが入るように映している。これだと両チームのDFラインからDFラインまでが収まりやすくなるし、片方が収まらない場合でも攻撃の全容は掴める画面構成になる。アップはFKの際などに適度に入れて選手の顔も分かるようにしているから、かなり見やすい。スカパーもそのあたりを見習って欲しいと思う。
●付け足し
このゲームは互いに攻め合いでとても面白いゲームだったのだけど、じゃあなぜ両チーム共に攻め合えたかといえば、決して守備が緩いとかそんなんじゃなく、どちらもボールの動かし方、起点の作り方がしっかりしていたからだ。
川崎は左右、真ん中のどこからでも攻められる数少ないチームのひとつだ。中盤がどんなに絞っても逆サイドは必ずスペースで張っていて、いつでもサイド攻撃を仕掛けられるようにしている。そして片方のサイドが詰まると、ピッチを横断するサイドチェンジで逆サイドへ振る。また、真ん中にはキープ力のあるヴィトール・ジュニオールやジュニーニョ、高さと強さのあるチョン・テセや我那覇などを揃えて、クサビのパスを受けてから後方の押し上げがあるまでの時間を稼げるようにしている。そのクサビのパスや左右への配球を行うのが中村憲剛で、この選手の高い技術力が川崎の攻撃を支えている。
いっぽうの名古屋はサイドの高い位置に起点を作る。マギヌン、玉田、ヨンセン、小川といったキープ力に優れる選手達が、ちょうど川崎の両サイドと同じくサイドの高い位置に張っていて、逆サイドのDFから対角線上にロングフィードされる。フィードを受けた選手はチャンスがあればそのまま速攻に移るが、なければサイドバックの上がってくる時間を稼ぐ。また、遅攻の場合でもサイドの高い位置に起点を作るため、サイド突破に攻撃的MFとサイドバック、場合によっては守備的MFまでも絡んで数的優位を作り出し、フリーランニングに合わせて縦のスペースへパスを出す。またサイドに起点ができると、守備的MFも上がってきて、全体を見ながらの配球は精度の高いパスを操る中村直志が担当する。
いずれにしても高い位置でパスを受けて後方からの押し上げが来るまでの時間を稼げるプレイヤーと、精度の高いパスを配球できるボランチの存在が攻撃を支えている。ちょうどガンバが強かった年も同じで、配球役には遠藤がいて、ポイントにはフェルナンジーニョやマグノ・アウベスといった選手がいた。またレッズの場合も配球役に長谷部とポンテがいて、ポイントにはポンテとワシントンがいた。鹿島にはサイドバックもいれば配給役に小笠原もいて、ポイントには本山やマルキーニョスがいる。昨シーズン、小笠原が復帰してから快進撃が始まったのは決して偶然ではない。要するに、配球役とポイント、押し上げは攻撃のセオリーのひとつで、これを上手くやれればそれだけシュートチャンスを作り出せるということだ。今シーズン、ガンバやレッズが思うように勝てないのは要するにここに問題があるし、名古屋が躍進できているのはこれを上手く解決できているためだ。
そんなこんなを考えながら熱中していたイルカとシャチのどつきあいだった。
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